アパレルにおける「ハンドメイド」の定義

ハンガリーのコットン工房

ハンドメイドを売りにしている商品はたくさんありますが、実は部分的に手作業というだけで、全ての工程が手作業という商品はほとんどありません。では、どこからがハンドメイドで、どこからがハンドメイドではないのか。

ネクタイをはじめほとんどのアパレル商品の「ハンドメイド」とは、縫製の仕方、つまり仕上げが手縫いかどうかが基準になっているようです。繊維の表示(コットン100%など)は消費者庁が定めた明確な決まりがありますが、商品のタグに「ハンドメイド」と書いていいかどうかという明確な基準はなく、各メーカーの裁量に任せられているのが現状です。

つまり、機械で大量生産された生地を仕入れ、手縫いで仕上げれば、それはもう「ハンドメイド」と言ってしまえる訳ですが、生地の裁断に機械を使ってもいいのか、ミシンはどうなのか、それはメーカー次第なのです。言ってみれば「手料理」と同じ理屈かもしれません。

仕事柄、色々な織物工房を訪れるのですが、「うちはオールハンドメイドだ」と説明されることが度々あります。「確かにハンドメイドだな」と思う時もあれば、「これ、ハンドメイドと言っていいの?」と思う時もあります。ここで、「間違いなくハンドメイド」→「全くハンドメイドではない」を、織物工房別にグラデーションで分けてみたいと思います。

 

1 – 糸からつくるラオス・シェンクワーンのシルク工房

まず、シルクの原料になる蚕から自分達で育てているのも凄いですが、その蚕のエサになる桑や、染色の元になるインディゴなどの植物まで栽培しています。染色、紡績、織りなど、全ての工程が昔ながらの製法です。おそらく電気をほぼ使用しない、外部委託もゼロ、現代では極めて難しい「オールハンドメイド」だと思います。

ラオスのシルク工房

ラオスのシルク工房

ラオスのシルク工房

ラオスのシルク工房

シェンクワーンの織物工房Mulberries1 ラオス01-04

 

2 – ハンガリーのおばあちゃんによる手織り工房

19世紀から続く、伝統のコットン織物。ほぼ全てが白、赤、青、黒の糸で構成されているパローツ地方独特のデザインが特徴です。年季の入った木製の手織り機で織られた、まごうことなきハンドメイドですが、上記ラオスの工房のように、糸から生産している訳ではありません。

ハンガリーのコットン工房

ハンガリーのコットン工房

ハンガリーのコットン工房

ネクタイブランドTUNDRA – ハンガリー

 

3 – ネパールのカシミア工房

ネパールではかなりの数のカシミア工房に伺いましたが、ほぼ全てで「ハンドメイド」と聞きました。カシミアの製法は大きく分けて2種類あって「Handloom(ハンドルーム)」と「Knit(ニット)」。Handloomは1本の糸を木製の織り機を使って織るので、いわゆるハンドメイドっぽい製法です。それに対してKnitは2本の糸を重ねて機械で織るのですが、ネパールではこれもハンドメイドと呼びます。人が手を動かしていて、コンピューター制御されていなければハンドメイドなのか、基準はよくわかりません。

ネパールのカシミア工房

ネパールのカシミア工房

ネパールのカシミア工房

チャンドラギリのカシミア工房|ネパール旅行記02

 

4 – イングランド「シルクの町」にある老舗工房

創業270年もの歴史があるため、とにかくデザインのアーカイブが豊富です。新しいデザインをオーダーすることもできますが、何と言っても過去のアーカイブを使わせてくれるのが魅力です。デザインを忠実に再現するために独自のソフトウェアまで開発したこちらの工房は、古いデザインを取り扱っているものの、生地の製法は完全に現代のデジタルです。

イングランドのシルク工房

イングランドのシルク工房

イングランドのシルク工房

ネクタイブランドTUNDRA – イングランド

 

まとめ

ハンドメイドという観点で文句のつけようがないのが、1でしょうね。ハンドメイドというより地産地消とかの域ですね。2も間違いなく一般的にはハンドメイドでしょう。3のKnitはかなり微妙で、日本人には理解しづらいかもしれません。

世界の伝統織物でつくるネクタイブランドTUNDRAでは、使用する生地がハンドメイドであるかどうかは、重視していません。4のようにハンドメイドでなくても面白い生地は世界中にあるからです。そもそもヨーロッパでは18世紀に産業革命が起こって工業機械が普及し始めるので、ハンドメイドだけに絞ってしまうのはもったいないのです。ハンドメイドだけが伝統ではないですからね。

この先、ハンドメイドの商品はますます淘汰されていくと思います。ですが、それでも生き残った伝統、職人の技はますます価値が上がっていき、際立っていくのだと思います。


ネクタイ専門店TUNDRA(ツンドラ)が投稿いたしました。

ネクタイ専門ブランドTUNDRA